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2012-04-13(Fri)

桜の季節

2012年04月13日(金)
ようやく部屋が決まりそうだ。

というより、何か問題が発生しなければ恐らく今の部屋からそこへ移る。
引っ越し先を捜すにあたり、「ペット可」ではなく「猫可」を加えたことで、グッと選択肢はせばまった。
一度は一緒じゃやっぱりダメだ、実家に預けよう、病人には猫と暮らす事さえも贅沢なのだ…と諦めかけた。が、「それでも人間か」「バカ野郎」などと言われて(そこまで言われてないけど)、何とかユキと一緒に暮らせないかとあがいてみた。
京都の人なら解るかと思うが、そりゃあ大変。賃貸でペット可自体は今の時代珍しくはないが、その分「条件」がグッと上がる。家賃が上がったり、入居時の「保証金」のケタが変わったり、修繕金という名の戻って来ないお金が付加されたり。
とにかく、病人一人と猫一匹、何とかなるやろ! と思ってたくさんの物件をネットで見て調べ、絞り込み、いくつか内覧した結果、びっくりするくらい市中の便利のいい場所に部屋が借りられそうだ。
もちろん、ということは、である。
移動の時期も終わった4月に「残っていた」物件。
日当たりほぼゼロ。繁華街の外れ。1階。しかもエントランスのすぐ横。人が出入りするには必ずドアの前を通られる。
不動産業者曰く「女性の一人暮らしさんはまず入られませんしね、ご家族向けでもないですし、…ご老人もねえ」
そこで口ごもった。

そう、「棺桶」みたいな部屋だ。

いいじゃない、棺桶。
俺にぴったりだと思った。とはいえ採光がないわけでもない、ちょろっと建物の隙間から日が射すこともありそうだ。棺桶に入っても蓋をされ、釘を打たれたわけでもなかろう。
広さは今の半分以下になる。ということは荷物も半分以下に減らさないと物理的に入らない。
廃棄物処理と不要品買取を同時に行う専門業者と、引越業者と、引越と不要品廃棄とセットと、色々な組合わせで見積もりを取らねばならない。
何しろ金が無いのだ。格好つけてもしょうがない。
新居の契約といっても礼金(敷金は0物件)、前家賃、保証会社への保証金、不動産会社への仲介手数料、文書作成料、火災保険加入、あれやこれやで恐ろしくお金がかかり、さらに不要品処理と引越料がかかり、その上、今の部屋を出るにあたっての諸費用の精算もある。
ま、最悪死ねば共済が降りるんでそれで払うように書類も用意してあることだし…というか死にたくないが、綱渡りどころか綱から足を滑らせ小指一本でぶら下がっている状態。
それでも何とか部屋は借りられそうで、後は病人がゆっくり時間をかけて廃棄するものと持っていくものを選別し、日にちを決めて回収して貰い、お世話になった今の素晴らしい部屋に何一つ残さずに出て行かねばならない。
大家さんはとても良い方で、こちらの事情をよく察して下さるが、だから余計にご迷惑をおかけしたくない。

連れ合いと二人でこの部屋を内覧した時、メゾネットに上がって北側のベランダから見た、松ヶ崎の山に描かれた五山送り火「法」の字。
連れ合いが「わあすごい!」と笑顔で頬を紅潮させていたのを思い出す。
階段を降りて南向きのベランダに出れば、正面に吉田山、左手に東山大文字、そしてやや右遠くに京都タワー。
これほど素晴らしい場所は、京都市内でもそうはない。
「ちょっと予算オーバーだけど、決めちゃおう!」「二人で働けば何とかなるさ!」
そう言い合って、決めた。
決めて良かった。人生最良の日々をここで過ごせた。

さて、それももう終了。
俺もよく頑張ったよ、連れがいなくなった後もここに居たいばかりに無理をした。
お陰様ですってんてんだ。でもそれも、自分のせい。
そうなる前に動けよ、ともう一人の俺が言うけど、もう一人の俺は出来る限りここを離れたくないと言い張っていた。まだ連れがここに居そうだし、外に出て道から何気なくこの部屋を見上げると、ベランダでいつもそうしていたように、にこにこ笑った連れ合いが手を振ってくれそうだ、今でもそう思って時々見上げてしまう。
何もかも思い出、そして未練である。
かつてごちゃごちゃと散らかし、雑然とした部屋に住まざるを得なかった暮らしが続いたが、この部屋では本当に、時々「散らかすなよ」でお互いケンカするくらい綺麗に暮らした。絵や写真の額を外しても全く焼けも跡もない。フックを打った穴くらいは残るが、壁紙の色もほとんど変化がない。
二人で綺麗に気持ち良く穏やかに暮らそう、そう誓ったこの部屋だが、今は引越前で惨憺たる有様だ。
あちこちの扉は開け放しにされ、順番に不要品と持っていくものを分別し、その過程で不要なものは隅に片端から積んでいく。当然崩れる。猫も遊ぶ。喜んで。ぐちゃぐちゃになる。毛も舞う。
その中でも日々、やることはやり、暮らしていかねばならない。

引越まで余裕を持っていたつもりだが、一ヶ月ちょいだと、俺一人の体力だとギリギリかも知れない。かといって、では誰かに手伝って貰えるかというと、それも出来ない。
何しろ、連れ合いではなく「やまだ紫」という敬愛する作家の原稿や原画の類は選別など出来るはずがない、全てをキチンと管理する。持っていくし保管する。どうしても収まらないものは、虔十書林の多田さんが「預かってあげる」と言ってくださった。
あとは俺が俺自身のために、「連れ合い」の衣服や私物、ちょっとした愛用品、大きな愛用品(イーゼルやベッドなど)、その他のものを「要・不要」に分けていく作業。いっそ他人に任せた方が楽で的確かも知れないが、そういう「機械的」な問題じゃないのだ。当たり前だ。

長女のももちゃんは、子どもは二人とも男児。おさがりにあげられるものはない。旦那が板前で将来自分たちで店を持ちたいと常々言っている。そんな店にさりげなく置いてあったらいいだろう、という小物をまとめて送った。
次女のゆうちゃんは二人とも女の子なので、連れが集めていた可愛いもの、食玩、ぬいぐるみなどを送った。二人には「形見分け」と呼べるものは直接、とうに渡してある。
あれこれと一つ梱包を開けるたびに、しみじみと思い出と様々な感情が沸いてくる。

三年前なら冷静に出来なかったであろう、こうした整理が出来るようになった自分にも、少し驚いている。時々じわっと来るが、情動失禁のような事は起きていない。恐らく、今自分が綱渡りのロープから落ちないように小指一本で生き延びようとしているからだろうし、何で頑張らなくちゃいけないのか、あるいは頑張らなくてもいいのではないか、そこら辺がよく解っていない事もある。
何というか、極限にある。そこで泣く方向へ行くと、ニンゲンにとって良くないと思う。だから笑う方へ持っていくように、脳が差配しているのだろう。きっと。知らんけど。

そこへ(ここのコメント欄じゃないですよ、他のテレビでもサイトでも何でも)「これこれはこうなのだ」とか知った風な事を上から言われると、なぜ、人の人生を、生き方を、結果選んだ行為、結果を、他人が簡単に総括する? と思う。天の邪鬼でも偏屈でも短兵急でも不器用でもうすらバカでも何でもいいけれども、未来予知なんか出来ないし、みんなあがいてもがいて生きてるんだよ。
俺じゃないみんなも。

昨日、自転車に空気を入れて、今年初めて自転車で買い物に出た。軽快で気持ち良かった。
いつものように一乗寺恵文社もチラっと覗いた。どうしてか解らないけど、何か場にそぐわない気がするというか、ここに入る時はいつもマスクを外す。
しばらく行ってない弁当屋で安くてガツンと油っこい食い手のある弁当でも買うか! と思ったら潰れて宅配ピザ店になっていた。
京都は自転車無双である。桜もあちこち見た。でもカメラどころかスマホも忘れてきた事にすぐ気付いた。
この、網膜に焼き付いた桜の映像は美しいけれども、「桜」と言われて脳裏に浮かぶ光景にはいつも連れ合いがいる。
最後に見たのは、一緒に歩いた髙野川の桜。髙野橋から出町まで歩いたから、けっこうな距離だったにも関わらず、二人とも全く疲れなかった。「アスファルトの上を歩くのと全然違うんだよね」と連れも笑顔だった。

桜の季節は嬉しい、そして切ない。
だから桜は好きだし、嫌いでもある。
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シラトリチカオ

Author:シラトリチカオ
白取千夏雄/編集者。1965年函館市宝来町生まれ。元青林堂「ガロ」副編集長、97年よりフリー編集者・ライター・Web構築・管理他なんでも屋と、専門学校・大学講師など。
2005年夏、白血病告知・余命宣告を受けるが「慢性リンパ性白血病」に近いタイプと判明、無治療・対処療法、2014年より抗癌剤治療、巨脾へ放射線など治療開始。2015年夏左上眼瞼にメルケル細胞癌発症、眼瞼切除、再建手術、16年にかけて放射線も耳下腺に転移、郭清術、放射線治療中に再発、左眼球ごと摘出・皮膚移植。転移再発治療中ながらまだ生涯一編集者として生息中。
二十余年の東京在住ののち、07年から京都在住。09年5月、愛妻=漫画家・やまだ紫を脳出血で失った。
やまだ紫クロニクル

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