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2005-09-24(Sat)

癌は「最悪の病」ならず

9月24日(土)
前の晩比較的よく眠れたにも関わらず、寝覚めが悪い。5時に目が覚め、6時までうとうと。採血してもらった後でまた横になり、8時前の食事が来るまでまたうとうと、起きて食事を完食した後も目眩が治まらない。最初はこんなに小刻みに寝ているからいつまでも眠気が取れないのかと思ったが、食事をしてトイレで大をして…と時間がたっても目眩が引かず、大の後の恒例の体重測定にナースステーションまで行って帰ってくるいつもの道程も、今日はフラフラで手すりにつかまったりしつつ歩く。最近はもう一人でてくてく売店へ行っては戻ってくるのを目撃されても何も言われなくなったくらいなのに、突然フラフラになってるのですれ違う看護婦さんも不審顔だ。今朝の採血で貧血が進んでなければいいが。脾機能亢進が進んでいて汎血球減少も進んでいたらどうしよう…とかいろいろ考えてしまう。
外は夜中から雨、台風17号の接近でこれからしばらく雨模様の様子。それにしても1時間ほど横になっていても、起き上がると目眩がする。不安だ。…と思ってたら9時半に担当の看護婦Fさんの検温。目眩がすると言ったらまぶたをめくったり血圧を見てくれたりしたが、特に貧血症状もないので、朝採血があったからその結果を見ましょう、ということに。うーんじゃあこの目眩は何なんだろう。入院前にも一度、ひどい目眩の日があったが…。寝すぎってことはないと思うが(笑)、安静にしていると何ともなくて起き上がると、というか姿勢を急に変えるとグニョーンという感じ。動悸も頭痛も息切れも、貧血特有の症状はないのでそれこそ単なる目眩だと思うが。
11時過ぎに横になってうとうとしていると、MDr.が来る。今朝の採血の結果を持ってきてくれたが、やはりほとんど横ばい。WBCは1300、NEUTROは実数で594。ただPLTは86と過去最低まで下がった。出血に気をつけよう。その後椅子に座ってもらい、昼食が来た後もしばらく話す。MDr.は俺が「これは白血病、ではないんですよね、どっちかというとリンパ腫寄りなんですか」と聞くと、「そういう分類もまあ難しいんですけどね、この血液疾患でも腫瘍ということになると、物凄い数の分類があって、正直僕なんかも学生時代なかなか覚えられなくて成績悪かったくらいですから(笑)」とのこと。
俺が件の「がんサポート」をまた取り出して「リンパ腫だけでもこんなに種類があるんですもんねえ」と特集記事にあるリンパ腫の分類表を示すと、「ああ、でもこれは物凄く簡略化してありますよ。WHOの分類なんかでもズラーッと凄い細かい一覧になってるくらいですからね」と言う。なるほど、それは俺もサイトで見た。
そもそも「血液の腫瘍は良性はない」といい、例えばカンニングの竹山の相方がかかった白血病は一部報道で「良性の急性リンパ性白血病」だと報道されたけども、ああいう言い方は全くナンセンス。MDr.は「まあそういう風に、『悪いものじゃないよ』ということを言いたいがためなんでしょうけどね」とのこと。通常の固形の腫瘍の悪性か良性かはどう分類するかというと、癌細胞があって、さらに他の臓器へ浸潤するかどうか、を見るのが普通。そういう意味では血液の腫瘍の場合、そもそも血管を通じて全身にまわっているから他の臓器へ癌細胞が浸潤する可能性も高いし、そのこと自体ですでに悪性であると言うしかないのだろう。で、問題はその血液の悪性腫瘍でも、「悪性度が高いか低いか」が先の分類の数を見ても解るように、物凄く幅があるのだという。
俺の症例の場合は、そもそもこれにかかった人はこういうスパンで悪くなった・あるいは良くなった…という報告例自体がないから、まずどうなのかということがはっきりいえないので、その分正直医師の側も手探り状態であるという。MDr.は「おっかなびっくり」という表現を使っていた。ただここ一ヶ月ほどの状態を見ていて、非常に良く似た型の白血病があるという。もちろんそれに分類できないから困っているわけだが、その病気の型だと、ほとんど症状に変化がなく、経過を見ている間に天寿をまっとうする例さえあり、多くは五年、十年、十五年というスパンで経過を見ていくことが多いというのだ。もしそうだとしても、癌は癌、免疫低下によって感染のリスクは通常の人よりも遥かに高いので、健康な人と全く同じ生活が出来るかといえばそうではないものの、かなりそれに近い生活は維持できるのだという。
病気全体ということでいえば、癌は確かに最悪の病気かも知れない。だが、細かく悪性度で見ていけば、かなりいい分類に入るのではないか。連れ合いを見ていてもそうだが、俺は癌だ、確かに癌なのだが、合併症の危険のある重度の糖尿病、透析の必要な腎臓病や、酸素ボンベが欠かせない呼吸器疾患など、癌でなくとも辛い闘病をしている人たちはたくさんいる。俺は何年生きられるのか、少なくともここ一年で死ぬということはなさそうなので大いに安心したが、それでもその間気をつけていれば「普通」に近い生活は維持できる。そのことをむしろ、癌という最悪の病気にかかってしまった今、素直に喜びたい。
ただしずっと無治療でいればそのうち治る…というような甘いものではない。この病気は完全に治るということはまず、あり得ない。「寛解(かんかい)」は「治癒」ではないのだ。癌がおとなしくしてくれている間は貧血や免疫低下に注意していればいいが、暴れだしたらどうなるのか、誰にも予測もつかない。その時期もいつなのか、わからない。ただ幸いなのは、この病気を発見してもらえたわけだから、今後定期的に血液検査をし、何ヶ月かに一度はCT、半年にいっぺんくらいは骨髄を見て…とやっていけば、少なくとも突然治療不能な状態で急死するということにはならないのではないか。そしてそろりそろりと注意深く用心して生きていくうちに、新薬が見つかるかもしれない。この分野、細胞学でも最先端で進歩しているところで、ついこの間も白血病の新薬が発表されたばかりだし、B細胞性の白血病に効く副作用も少ない新薬の「リツキサン」だって最近の発見だ。そういう意味では大いに希望はある、何より希望が持てることに素直に感謝したい。

昼食を完食、連れ合いからは「雨だね」とメールが来たので、「今日も来なくていいよ」とメールする。
癌を宣告され、入院してしばらくは「死」が目の前にチラつき、覚悟をしたとはいえ、実を言うと本当に参った。連れ合いや他人といる時は平静を装ってはいたが、一人になるとどうしようもなく辛い時があった。その時に痛切に思ったのは、ただ「生きたい」「生かして欲しい」ということだけだった。もし生きられるというのなら、これからは自分や連れ合いの体を大切に、健康に気をつけ、用心し、労わりあって謙虚に生きよう。そう誓った。だがこの病気は、「誓う」も何も、「そうしないと生きていけない」病気なのだ。こういう流れになったのは必然であるというのが、つくづく身に染みる。MDr.も正直に「まあ我々もあせって薬入れなくて良かったですよ、けっこうやる気満々でしたからね(笑)」と言っていた。虫歯のせいで治療が延びた、虫歯を放置していた自分の愚かさを嘆いた。もちろん虫歯は免疫的にも放置していいことは何もないが、その時間のおかげで、どうもT-PLLではないらしいということが解りはじめ、抗癌剤投与に待ったがかかった。よく調べよう、多方面から意見を聞こう、集めようということになった。虫歯にむしろ救われたとも言える。MDr.は「ただ薬を入れなくて良かったのか悪かったのかというのは解りませんけどね、ひょっとしたら薬に凄くよく反応していたかも知れませんし」とも言う。俺もそう思う。抗癌剤をすぐに投与されていたら、今どうなっていたか。そんなことは誰にもわからないことだ。ただ再三記述しているように、大いなる流れがあり、その結果として今があるのだと思えば、結果的にはこれでよかったということだろう。

・連れ合いに強く勧められて癌給付付保険に加入した
・たまたま連れ合いの病院へ一緒に区の無料健康診断に行く
・iタワークリニック・岡本太郎先生がレントゲンで縦隔の影を指摘、CTを勧められる
・連れ合いが突然吐血、「某病院」に入院するが環境が合わず、強引に退院
・岡本太郎先生がCTから脾臓の腫脹を認め、縦隔の影と合わせてリンパ腫の可能性を指摘
・すぐに血液内科のある大きな病院での精密検査を勧められる
・「某病院」は連れ合いの入院経験から避け、現在のN大I病院を紹介してもらう
・N大I病院で各種検査の結果、癌であることが判明、余命宣告を受ける
・入院し、翌週から抗癌剤投与の予定を告げられる
・主治医U先生の問診で虫歯が発覚、歯科治療のため抗癌剤投与延期
・歯科治療中、骨髄細胞生検の結果、極めて珍しい症例であることが判明
・抗癌剤治療がさらに延期され、多方面の所見を集めることになる
・治療延期・待機中、症状に進行・変化がないことを確認
・骨髄、血液、脾臓腫脹なども変化がなく、治療そのものが延期・退院へ
この流れ、癌であるということを本人や周囲に強く「理解」させはしたものの、その結果として「死」や「治療奏功・寛解」が導かれてはいない。ということは、こうした「大いなる流れ」か「意思」のようなものの存在を知らしめ、結果はそれを知った後の俺次第であると言ってはいないか。つまり今後「死」になるか「生」になるのかは、やはり自分は生かされているということに感謝をし、まっとうに暮らしていくかどうかで決まるのではないか、と。
以前このブログにまりさんが、ある癌治療の名医が、患者の免疫力を高めるために歯科治療と禁煙をまず勧める、というのがあった。俺はまさしくそれではないか。歯科治療は自らの免疫力を虫歯菌だの歯周病菌だのとの日常的な戦いから解放してやること。禁煙ももちろん、自ら癌への道を歩むという愚行からの解放。そんなことを考える。ならば、癌をねじ伏せることは可能なような気がするのだ。
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コメント

免疫力を高めそうなコミック?

最悪の最悪といった、展開からは少しづつ上向きになってきたようでここは辛抱のしどころだと思います。
私の元連れ合いが10数年前に食道ガンの手術に臨んだ時、手術自身も大変難しいものといわれ、例え成功しても3年生存率は30%だと言われたのが、今にいたるまでピンピン(特に私と別れた4年前以降)生きてるのを見ると、やはりこの病気もケースバイケースであるのだなあ、と思います。
ところでコミックス近刊いくつか。『のだめカンタービレ』13巻、免疫力に少し寄与しそうですね。(また、ちょっと笑えるようになってきました)『フルーツバスケット』18巻、これはむしろ免疫力を下げそうですね。この作品は、本当にあの日本一高貴で悲惨な一族のことを念頭において書かれているのか?目は、離せないのですが。
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Author:シラトリチカオ
白取千夏雄/編集者。1965年函館市宝来町生まれ。元青林堂「ガロ」副編集長、97年よりフリー編集者・ライター・Web構築・管理他なんでも屋と、専門学校・大学講師など。
2005年夏、白血病告知・余命宣告を受けるが「慢性リンパ性白血病」に近いタイプと判明、無治療・対処療法、2014年より抗癌剤治療、巨脾へ放射線など治療開始。2015年夏左上眼瞼にメルケル細胞癌発症、眼瞼切除、再建手術、16年にかけて放射線も耳下腺に転移、郭清術、放射線治療中に再発、左眼球ごと摘出・皮膚移植。転移再発治療中ながらまだ生涯一編集者として生息中。
二十余年の東京在住ののち、07年から京都在住。09年5月、愛妻=漫画家・やまだ紫を脳出血で失った。
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