2013-08-16(Fri)

死ぬなら「校了後」

2013年08月16日(金)
朝7時起床。

起きた感じはあまり変化無く、つまり、感染症にかかる前の「鈍い病人の寝起き」。
スカッ、シャキッ! とした爽快な目覚めがないのは導眠剤とアモバンのせいだろう。それとここ半年顕著な、目がしょぼく頭がいつも思い、めまいというほどでもない「どんよりした感じ」。
我ながらもう長くねえな、と思う。
思うけど、生きている以上は生きるしかないし。

今日は京大病院、がん病棟の外来へ検査結果の所見と今後の治療方針などを伺いに行く。
8月16日といえば京都は五山送り火。ただ、うちのあたりからでは角度、距離、高さなどで見えないし、2007年に越してきて翌年夫婦で1度だけ一緒に、翌年はその連れ合いを失い、彼女を迎えて送る火となった。
そうして一昨年まで、一人で自宅に居ながらにして送り火を見る…という贅沢な環境に居られたので、もういい。
去年同様今年も迎え火・送り火は電気の廻り灯籠。
お酒を冷たいのに入れ替え、写真に線香をあげて手を合わせる。
お盆だからどうこう、ということではないが。

なんとなく病院までの道も空いていて、なんとなく病院もいつもより患者が少ない感じだった。
お盆だしなあ。
採血の番号も9時半で190番くらいと少ない。10分くらい待って、血を試験管3本分抜かれた。
採血針を抜いた痕のテーピングを抑えつつ、積貞棟の外来へ向かい、大型液晶画面で高校野球を見物。
予約時間は11時なので、1時間半ほどある。

こうして椅子に黙って座っているのは楽そうに見えて、実はけっこうしんどい。
何しろ子持ちししゃもよろしく、脾臓が左胸部から骨盤までぼっこりと巨大に膨れているので、要するに妊婦さんのように背筋が凝る。時々立って後ろへ体を反らしたり、どちらかに寄りかかるように横座りをしたり、本当は横になりたいのだがそうもいかずにしょっちゅう体制を変える。
要するに同じ姿勢を取り続けているのが一番しんどいのだ。
立ち歩くのもこの「ぼて腹」を抱えてなので、大きな荷物を抱えて移動するようなもの。
ただ立ってるのも同様に「重い」。
どうすりゃいいんだよこの体。

とりあえず体制を時折変えつつ目を閉じてひたすら待ち、ほぼ予約時間通りに呼ばれたので、診察室へ。

K先生は「その後どうですか」と言われるので、
「めまいや頭痛などは、自分では回復した気がするんですが…」と報告。
先生も「そうですね、炎症もおさまってますし、肝臓の数値も下がりつつありますので、やはりこれは何らかの感染症だったんだと思います」とのこと。
前回…4月に高熱を出して、夜中に救急外来で点滴を受けた時より若干軽微で済んだ(といっても40度近い熱が出たが)のは、比較的早く抗生物質の投与が出来たからだろうということ。ただ、耐性が出来てしまうので、症状が回復してきたのでこれ以上の投与はやめましょう、とのこと。

それと懸案の、元の病気…血液腫瘍の進行の方だ。

K先生の所見としては、2度輸血を行ったあと、感染症の回復と同時に新しい血球も若干増えたこと、白血球数も600→900と上がったこと、血小板数も5万5千まで回復したことを考え、相変わらず赤血球数は以前と比べると少なくはあるが、幸い「急激な病気の進行」ではなさそうだということ。

良かった…、思わず表情も緊張から弛緩へと変化するのが自覚できる。

ただそうは言っても免疫がここまで落ちているわけだし、そのうえ貧血傾向が弱いとはいえ出てくるようになると、今まで以上に注意しながら暮らさなければならない。
先生は「ことしは特に暑いのでねえ…、なるべく外出は控えていただいて、無理されないように…」と。
健康な人でもくらっとくる猛暑である。今日も37度くらいまで上がるという予報だし、自分も以前のように帰りに熊野前まで歩いて買い物…などと考えただけで目眩がする。とっとと終わったら帰って大人しくしているしかない。
感染症も、数値が平常値に戻りつつあるというだけで、完全に元に戻ったわけではないし。

ところで前回といい今回といい、ほんとうに偶然編集の仕事の谷間であったのが幸いだった。
そのことを先生に話すと、偶然ではなく、やはり気を張って仕事をし、それが一段落してホッとしたところ…つまり油断したところへ、日和見感染がつけこむという事もあるそうだ。
普通の人なら、校了後の心地よい疲労感と共に達成感を味わう「エディターズ・ハイ」、自分もそれはよく知っている。
だが悲しいことに今の自分の状態では、その隙間に雑菌やウィルスがつけ込んで来るということだろうか。
ただ、最悪の急性転化ではないし、赤血球の血球崩壊がガタガタッと急速に進んではいないことが解った=これまで通り、いやいっそう注意しつつながら、入院加療や治療開始とならなかったことは、ほんとうに心底ホッとした。
K先生は「新薬が使えるようになれば、お仕事の方と調整して、なるべく影響の出ないかたちで入院などを考えることも出来ますから」と言ってくださる。
本格的に癌…というか血液腫瘍と戦うとなると、いったいどうなるか自分でもよく解らない。
たぶん症例が珍しい分、先生がたもよく解らないだろう。
正直不安だし、不安にならない方がどうかしていると思う。
治療自体もそうだし、治療費のことやその後の生活、猫のことなどなど。不安材料は山ほどある。
けれど、とりあえずは「放免」という事で、次回9月あたまにまた受診。

「何か、熱や異常があったらすぐ外来の方へ電話してくださいね。夜中だったら救急の方へ連絡して貰えれば、当直がすぐ対応しますから」とのこと。
ところで今回の異常については、感染症なのは間違いないが、原因というか考えられる対象が多すぎて、正直わからない、ということだった。日和見感染なのか、あるいは何か別なものが入ったのか、とにかく肝臓や腸に悪さをしたのは間違いないという。
正直、もう注意のしようがない気もする。だが、我ながらこれだけ注意していてコレだ、もし野放図に無防備でいたらとっくに死んでるのだろう…とも思う。

診察室を出て、受付をし、会計受付にまわり、会計を済ませ、地下のコンビニで簡単な買い物をし、そしてまっすぐタクシーで帰宅。
編集の仕事でお世話になっている会社に寄り、社長さんに事情を説明したかったのだが、数値を見ると感染症も完全に治ったわけではないので、今日は先生の言われた通り大人しく戻ることにした次第。

社長さんには電話で事情を報告した。
「これまで通りやって貰えるのが一番ですが、くれぐれも無理しないでください」と暖かいお言葉。ありがたいです。

それにしても、今年の暑さは尋常ではない。
部屋はエアコンつけっぱなしなのに、ちょっと動くと汗が出る。キンキンに冷やすと電気代が凄まじいことになるので、ぎりぎりのところ。
色々とぎりぎりだ。命も。

だが倒れるなら前向きに、ヘボでもとりあえず編集者として死にたいものである。
紙で作られる本や雑誌というかたちのあるものが好きで、WEBや電子出版を作ったり、それを愉しむことももちろん好きではある。が、好きの性質が違う。
かたちのあるものが好き、持ちたい、感触も含めて愉しみたいというのは、単に情報としてのコンテンツを脳に与えることとはちょっと違う種類のもので、前にも書いたがフェティシズムに近い。

昔の活版印刷の本は文字通り凹凸があって、指の腹でそっとなぞるとそれが伝わってきたり、新刊のインクのニオイだったり、上製本のズシッとした手応えだったり、新刊買ってきたらとりあえず「分解」(ツキモノ…カバーや腰巻きなどを外したり造本を見たり)する職業病みたいなもの…、色々ひっくるめてやはり「本」が好きなわけだ。

漫画も写真集も小説も詩集も画集も辞書も図鑑もみな、少なくとも今この時点では圧倒的に「かたちがあり、今ここにある」実感が嬉しいものが多い。それとは別に電子出版も驚くほど精細な液晶画面の解像度向上によって、拡大や縮小が自在だったり、音声や動画と組み合わさったり、新たな魅力に溢れている。

いずれにしてもそれらを「作るがわ」に携わっていられることは、「与えられるがわ」の楽しみと両方が味わえる贅沢な立場だと思う。
…にしても、生涯一編集者、倒れるまで仕事を! なーんてカッチョイイこと言ったって、現場では突然編集に死なれたらぶっちゃけた話その仕事誰がやるんだよ! という事態になるわけで、どうせ死ぬなら校了直後とかにしたいものだ。
いや本当に。
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ありがとうございます

皆さんからご心配、励ましなどのメールや電話、コメントその他いただき感謝いたします。
お花をいただいたり、体にいいお茶を送っていただいたり。すんません。
でもなかなかすぐに御礼、レスポンスが出来ず申し訳なく思います。
今ちょっと体力回復と仕事のための温存で、ほとんど必要最低限の生命活動維持(笑)しかしておりませんで、本当に申し訳ないです。
もうちょっとで充電完了する…はずなんですけどねえ。
バッテリーが劣化してるんでしょうか。
自分の記憶をPCのHDDに預けることに慣れると、脳が退化するのがはっきり解ります。
しかし生命維持のバッテリーの劣化はないっすよねえ…いや、あるのか。老化や病気ってそういうことなのかも知れないですね。

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シラトリチカオ

Author:シラトリチカオ
白取千夏雄/編集者。1965年函館市宝来町生まれ。元青林堂「ガロ」副編集長、97年よりフリー編集者・ライター・Web構築・管理他なんでも屋と、専門学校・大学講師など。
2005年夏、白血病告知・余命宣告を受けるが「慢性リンパ性白血病」に近いタイプと判明、無治療・対処療法、2014年より抗癌剤治療、巨脾へ放射線など治療開始。2015年夏左上眼瞼にメルケル細胞癌発症、眼瞼切除、再建手術、16年にかけて放射線も耳下腺に転移、郭清術、放射線治療中に再発、左眼球ごと摘出・皮膚移植。転移再発治療中ながらまだ生涯一編集者として生息中。
二十余年の東京在住ののち、07年から京都在住。09年5月、愛妻=漫画家・やまだ紫を脳出血で失った。
やまだ紫クロニクル

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