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2005-03-02(Wed)

「出版不況」--細く長〜く…ではダメか?

 今日は新宿へ出て旧知の友人と某社の編集さんと飲む予定だったのだが、先方が急に出られなくなって延期になってしまった。今学校は春休みだし、幸いガチガチのスケジュールも明けつつあるので問題なし。
 何の話で飲むのか、というのは企業秘密なので置いといて、やっぱり最近の漫画業界、に限らず出版不況に絡む話もせねばならなかったろう。
 つい先日もある作家と話をしていて、近年の「昔の漫画の復刻ブーム」の話題になった。お互い、いい作品は古びないわけで、それが証拠に復刻された漫画は今の読者に新鮮に受け入れられているものも多い。もちろん的を外れた…というようなものもあるにはあるものの、復刻するくらいなら小部数でもいいから出し続けておいてくれりゃあいいじゃん、という話。
 ただ、一応版元側にいた人間としては、そういう理想論的なことだけを主張するわけにはいかないということもある。ビンボで零細の会社だったとはいえ、だからこそ、「紙の注文から営業まで」出版社で行う業務は経理の一部も含めて全て、実際にこの手で行ってきて見えたこともたくさんある。やらなかったのは財務など「経営」に関する部分くらいだろうな、本当に。

 版元側が出した本を全て継続して「現行商品」として保有し続けられない理由は、もちろん複雑でたくさんの理由があるけども、その一つに、「物理的な保管スペースの問題とそれに伴うコスト」の問題があるのは事実。本はかさばる。当時俺がいた青林堂の主力単行本は、A5版で11折〜12折くらい(176〜192頁程度)の本が多く、カバー(PP)がけしてある本は、20冊が一梱包になっていた。その梱包を5つ、調子のいい時には6つ・つまり120冊くらいをヨイショで床から重ねて持ち上げ、狭い階段を昇り降りしたものだ。よく腰をやらなかったな、と今では思う。(おかげで一年足らずでもともと逞しかった肉体は筋肉隆々になった、誰も俺を編集者だとは思わなかっただろう)
 それらの本は、重さもさることながら、積み重ねると数千冊の新刊はかなりのスペースを占有する。本は単純に同じ方向に梱包を積み重ねていくと、どこか一方からの力で簡単に崩れるから、我々はいつも部数に応じて積み方を変えて倉庫に収めた。

 例えば保管しておく本が1000冊くらいなら、20冊梱包を「5積み」といって、図のように積み重ねていく。一段で100冊になるから、10段重ねれば終わり。2000冊なら7積みにしたりする。床…というかパレットというすのこ板を敷いた部分にスペースが足りない場合は、2000冊でも5積みにして20段重ねることもある。けっこうな高さになるが、こうした積み方でキッチリ積めばビクともしない。(他にも3積みや16積み、24積みなどたくさんのバリエーションがある…図参照)

 そうして我々編集部員…というか社員は、毎日朝から晩まで新刊や返品(返品は同じタイトルが一結束になっているわけではなく、バラバラの本がヒモで15〜20冊くらいの結束になっていることも多い)を外に出したり社内に運び込んだり、狭い階段や廊下に積んでおいたり、そして一週間に一度くらいは倉庫へ行ってトラック一台分の「商品」を会社への補充のために積み出したり、その度に倉庫の本を積みなおしたり…、と本当に力仕事の合間に編集をやるようなものだった。
 まあ、そんな編集は大会社には一人たりともおるまい。出版社は四千数百あれど、その売上のほとんどは上位百社がガバリと取って、残りカスをその他の零細版元が奪い合う状況だ。小さな版元は営業(対取次、対書店、対読者全て)も出荷や返本処理や在庫管理も、全て編集が兼業しなければならない。よって本というかさばる、重たい「商品」を常にまとまって扱わざるを得ないのである。

 話が逸れた。ともかく、本は初版を刷ったらそれが取次への新刊委託&書店からの事前注文でハケてくれれば、あとは返本が返ってきたら改装(カバーをかけ替えたり、ヤスリで汚れを落としたり)して出荷するか、在庫分を残して思い切って断裁(廃棄)するかは版元の裁量次第だ。いっときのブームや先発企画に乗ったり、旬のタレントや時の人の本をその最大瞬間風速時に売り切れば良いとする「Hit&Away」本は、ほとんど在庫として持つことをせず、廃棄されることも多い。そんなものを保管しておいて長く売るよりも、次の話題に飛びついた方がいいからだ。
 でも、これは貧乏で小さな版元にいて実感したことなので断言するけれど、版元にとっての財産は、そうした最大瞬間風速以外は全く売れないものよりも、時代やブームに無関係に長く売れる「良書」だ。俺がいた当時の「ガロ」を出していた青林堂は、初版がせいぜい5000部程度、それを半年から一年かけて売り切る。そうしたら2000〜2500部程度の再版をし、それをずっと何年もきっちりと継続して廻していく。こうした本が数十アイテム揃うと、それらの「計算できる売上」はその会社を安定させてくれるのだ。
 また実際にネクタイ締めて背広を着て、皆で沿線を割り振って書店営業にも行った立場として、これも断言するが、そういう「長く売れるいい本」を出す版元は、書店からも一定の評価を得るので、書店での棚もきっちりと確保できる。というか、書店員にファンが多くて、会社の規模よりも遥かに優遇していただいた経験がある。

 つまり、いい本を長く売る。細く長くでもいい、そうした良書をたくさん出す。そう方向転換しただけで、大儲けこそ出来ないものの、堅実で息の長い出版が可能だった。
 今はこのBLOGでも書いたように、「マス」のメディアで取り上げられればガーッと売れる、それ以外は小粒になる傾向にある(一点あたりの初版発行部数はピーク時から半減している)から、「細く長く」の「細く」は本当に極細になってしまった。
(この項続く)
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コメント

コメントありがとうございます

龍騎さん
いつもどうも。確かに津野さんの近況で述べたようなことからずっと、こういうことは考え続けています。

タミオさん
BLOGも拝見しました。理想を高く持って出版活動を少人数で続ける、難しいと思いますが頑張ってください。頑張れ、なんて人様に簡単に言うセリフじゃないんですけど、でもやっぱり言いたいですよね、心からであれば。
倉庫スペースが無くてトラック一杯の本を泣く泣く断裁したこと、雪の日にトーハン(当時東販)板橋へ行き返品雑誌の処理に立ち会ったことなど思い出します。毎月立会いはやってたんですが、あそこは「雑誌の墓場」で、何か殺伐としてたなあ…
今後ともよろしくです。

良い本を長く

すごい勉強になるので、たまに寄らせてもらってます。

良い本の話、数年前から出版を始めて、ホント実感しました。うちで出すのが世間様の「良い本」レベルに達してるか疑問ですが、始めた頃より注文が多くなって少し楽になりました。後から出した本の注文が多いんじゃなくて、これまでの本のもチョロチョロ入るので、全体として増えるって感じです。

「会社の規模より優遇」してもらえるような出版社になるよう、頑張ります。

こんばんは。

・・というよりおはようございます。
「津野裕子さんの近況」「良い本を長く売れ!」とつながっていて、またしても興味深い考察が始まって嬉しいです。楽しみにしています。

コメントありがとうございます

流通システムの問題、というのもあると思います。そのあたりも追い追い記述したいと思っていますが、業界的にはタブー扱いされて長いですよね。
地方小出版流通センターができてずいぶん経ちますが、取次としての機能がどうこうより、そもそも地方小出版社の存在が今のマス中心の世界では認知すらされているかどうか。読者のみならず、編集を目指す学生たちですら、その存在を知って入ってくる者は皆無です。
若い頃、ガロ時代は昼休みや会社帰りに神田村の書肆アクセスにはよく通いました。いや、仕事ではなく読者としてです。北海道のアイヌ抵抗史や沖縄の琉球王朝時代からの日本との比較文化論、地方独特の民俗学研究書など、興味深い本が目白押しで、狭い店内でしたが大型書店よりよほど長時間居ても飽きない空間でした。
小部数でも「出さねばならぬ本を長く売る」。こうした理念はむしろ、大出版社には出来ぬことですから、地方・小出版社の存在意義はそこにこそあるのかも知れないですね。
この項目はつらつらと続けるつもりですので、またぜひコメントお寄せください。

毎回楽しく というより

興味深く読ませていただいています。です。
すいません。
二度もコメント失礼しました。

極細です。

身につまされるお話です。
私の話で申し訳ないですが、少しばかりさせてください。
地方の小出版社は、極細の糸を少しでも長くと
行き絶え絶えに経営を続けています。
(中にはきちんと固定ファンを増やして安定した
経営をなさっている会社もあります)
以前は、大手さんがつくったブームにのって
類似書を出してみようと思ったこともあったんですが、
同様に売れるはずがない。
やはり、小ロットであろうと
独自色を出し、時代に左右されず、
読者が満足できるようなものをつくり
ファンを増やすほうが大事かなと
あらためて思うこのごろです。
(それが難しいんですが)

ただ、昨今のマスメディアのニュース等を見ながら、
地方の小出版社ならではの切り込み策や
やれることがあるかなと思ったりもしています。
まだまだ、本当にいいもんはつくれていないので、
人に言えるとこまでいってないんですが・・・。
あと、話は変わりますが、流通システムにも
問題があるような・・・。

長々ととりとめもない話を失礼しました。
毎回楽しく読ませていただいてます。
またきます!
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シラトリチカオ

Author:シラトリチカオ
白取千夏雄/編集者。1965年函館市宝来町生まれ。元青林堂「ガロ」副編集長、97年よりフリー編集者・ライター・Web構築・管理他なんでも屋と、専門学校・大学講師など。
2005年夏、白血病告知・余命宣告を受けるが「慢性リンパ性白血病」に近いタイプと判明、無治療・対処療法、2014年より抗癌剤治療、巨脾へ放射線など治療開始。2015年夏左上眼瞼にメルケル細胞癌発症、眼瞼切除、再建手術、16年にかけて放射線も耳下腺に転移、郭清術、放射線治療中に再発、左眼球ごと摘出・皮膚移植。転移再発治療中ながらまだ生涯一編集者として生息中。
二十余年の東京在住ののち、07年から京都在住。09年5月、愛妻=漫画家・やまだ紫を脳出血で失った。
やまだ紫クロニクル

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