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2005-03-03(Thu)

「出版不況」--細く長〜く…ではダメか? その3

 コンビニエンスストア=CVSの本を卸しているのも、実は取次と言われる会社だ。この取次(出版取次業)さん、版元から読者へのルート(販路)のうち、85%程度を担っている。言い方を変えれば、版元にとっては自社本の販路の85%は取次経由--書店/取次経由--CVSだから、とてつもなく大きな存在ということになる。
 この取次は大手から零細まで合わせても、たった40数社しか存在しない。そのうち、「大手」といったら2社しかない。日本出版販売株式会社・通称日販、株式会社トーハン(旧・東京出版販売株式会社)、この二つだ。昔から業界では「ニットーハン」とか「トーニッパン」とか、この二つを併せ呼ぶことイコール「取次さん」ということになったほどである。
 日本の出版流通には独特の二つのシステムがある。一つは再販価格制度、もう一つはこの取次へ版元が本を卸す際の特殊な委託制度だ。再販価格制度については、簡単に言うと、製造者である版元が、取次+書店に商品=出版物を卸す=販売する、そして取次+書店が消費者つまり読者に出版物を販売する=再度販売=再販する際の価格を、「定価で拘束できる」ということ。
 そもそも日本は自由主義経済国家なので、物の価格は売り手と買い手との間の交渉で決まる。当たり前だ。そうは言ってもまあ全ての商品を買う際にいちいち交渉するわけにもいかないので、製造者は「これくらいで売りたい」「これくらいで買って欲しい」というメーカー希望小売価格とか標準価格とかを一応提示しておいて、あとは小売店の判断で市場価格が決まる。消費者に人気がある商品はそれなりの価格に、人気が無くなれば小売店の判断で叩き売りされる。それをメーカーがブランドイメージが下がるからといって「勝手に安売りすんな!」と圧力をかけたりすると、独禁法違反となって、公取委から警告を受ける。毎年のようにこれをやられてるのが、あの『某大手化粧品会社』ですな。
 この自由価格・自由競争ではなく、『定価販売』が認められている、つまり再販価格の適用が認められている数少ない業種が出版というわけだ。だから、版元は出版物に「定価」表示をすることができる。もっとも現在の再販制度は、1980年に公取委の指導により実施された「新再販」のことを言う。この話は長くなるのでアレだけど、公取委は「出版も他の業種のように企業努力をして自由競争すべき」、つまり適用除外を常に言ってきており、出版業界側は「本は文化。他の消費物のようにどっぷりと商業主義・資本主義の論理で競争をさせてはその文化が廃れる」と主張して対立してきた。(ちなみに数年前、公取委は「だったら国民に聞いてみようじゃん!」とアンケートを大々的に行ったが、98%だったかの再販制存続支持という結果に惨敗、決着がついてしまった)
 ちなみに出版物のほかには新聞、CDといったメディア関連商品や医薬品・安価な化粧品の一部に、独禁法で禁じられている再販制の適用が「例外として」認められている。CDは新譜を買うと、帯の裏、隅っこに小さく「(再)00年0月00日まで」なんて書いてあると思うが、これは時限再販といって、そこに提示された日までは定価で販売価格を拘束できるという意味。メディア関連商品、表現や著作権が絡むものというのは一定期間保護しようという意味あいがある。
 さて問題はもう一つの「特殊な委託制度」だ。
 版元から本を取次に卸す。こう書くと単純に取次は卸業者、物流業者的な意味で業界外の人は認識していると思うけれども、出版取次会社はそんな単純な企業ではない。版元にとって取次は販売代行業者であり、書店にとっては仕入代行業者という意味もある。商品=本だけではなくお金の流れも全て代行してくれるし、いつどこで何がどのようにどれくらい売れ、どれくらい返品されたか、というデータも細かく保有している。裏を返せば、版元にとってはそれらの「データを握られている」ことにもなる。さらに書店にとっても新規開業の際の研修や教育もしてくれるし、フェアなどのイベントの提案や実施などの企画、新商品の開発その他さまざまな相談相手でもある。
 もし取次が存在しなければ、版元は全国津々浦々の書店に商品を個別に配送し、それらの売上や返品を回収したり、大変な手間を背負い込むことになる。そして取次への「委託」というシステムが利用できなくなれば、書店からの能動的な「注文」でしか本を発送できないから、勢い売上部数も落ちるだろう。何より全国同時発売さえ難しくなる。最近ではネットでの販売や、年間予約を取って自宅へ直接宅配するような雑誌もいくつか出てきてはいるものの、やはり日本人にとって本は書店(もしくはCVS)で手にとってチラチラと読んでから買いたいものの一つだ。
 全国の書店に発売日に一斉に新刊が陳列されるのは不思議、とたまに業界外の人から聞くことがある。これが「委託」特に新刊委託のシステムによるものだ。出版物の販売ルートは直販や大学生協、キヨスク扱いなどさまざまであるが、中でも取次ルートが最大であると述べた。この、出版物が販売される際に版元と取次、取次と小売書店との間に交わされる販売契約は、大きく分けて
 「委託扱い」  「受注(注文)扱い」 そして前に述べた再販制による「定価販売」
の三つの約束事がある。
 この「委託扱い」が非常に特殊なのが出版業界なのだ。
 委託扱いには常備や長期といった一般の人には理解しにくいものもあるが、まあほぼ委託といったら「新刊委託」だと思ってもらっていい。版元と取次の関係というものは外部には非常に不透明で、取引条件(マージン比率)などは企業秘密に近いから、外部の人はなかなか業界内でも個別の版元のことを知ることは難しい。また委託(出版社が取次を通して小売書店に新刊-と重版の一部-の販売を委託すること)期間については
●書籍の場合=通常取次と小売書店の間は105日、取次と版元との間では6ヶ月となっている。
 この期間であれば、書店は取次へ、取次は版元へいつでも返品ができるわけである。
●雑誌の場合=取次ぎと書店の間は月刊誌が60日、週刊誌が45日、取次と版元の間では月刊誌が90日、週刊誌は三号目の発行時に精算される。
という目安はあるが、これらも取次と版元との力関係などで微妙に変わることも多い。
 よく言われる書店から取次経由で版元に返される「返本」は、原則としてこの委託扱いで送本された商品が返ってくることを指す。
 ちなみに、版元が取次に商品である出版物を卸す際の扱いはこの委託のほかに「注文扱い」「買切扱い」などもあり、それらは原則として返品はできない(抜け道はある)。
 さて新刊委託の際、版元は事前に取次の仕入れ部(雑誌仕入れ/書籍仕入れ/コミック仕入れなど)と協議をして、委託で搬入する部数を決める。これを我々は「部決」と呼んでいる。(部決にはもう一つ意味があって、版元内で本の刷り部数を決定することもこう呼ぶからややこしい)部決で各取次に新刊をどれくらい委託で搬入するかを決めたら、「搬入日」に新刊を取次へ納品する。部数や季節(お盆や年末年始、GWなど)で微妙に変わるが、この搬入は通常発売日の以前、だいたい平日中二〜三日置いて行うのが普通。
 つまり、新刊が出来上がったら取次に決められた部数を搬入日に納品する。それを取次は発売日までに、全国の支店・営業所を通じて契約傘下の書店へ行き渡らせる。今は運輸事情も良くなったので、かなりの僻地でもこれで発売日に同時に新刊が並ぶ、というわけだ。
 この際、「全国の書店へ行き渡らせる」際だが、取次はこれまでの売上データを元に、「この書店ではこれくらい」「ここはこれくらい」というふうに部数を割り振って、全国にバラ撒くわけだが、この配本方式を「パターン配本」と呼ぶのだ。このパターン、もちろんA社という版元があればA社以外には極秘である。もっと言えば、このパターンは取次さんは精度が高い、自信があると公式コメントはするが、かなり怪しいのも事実。
 例えば、Xという作家の新刊「@@@」が版元A社から出ることになった。
 版元Aは新刊見本を持ち(あるいは企画書段階の場合もある)、取次に部決に向う。
 取次はそこでPC端末をはじき、過去の作家Xの売上データや、場合によっては類書データなども参考にして、部決をする。(版元側はなるべくたくさん取ってもらってとにかく店頭に並べてもらいたいが、取次としては返品率を増やしたくはないので、委託部数は抑える傾向にある。)
 部決した新刊「@@@」を全国の契約書店へ配本する際、取次は書店の規模、立地、過去の類書の実績などから作成したパターンによって、どの書店へは何冊、どの書店へは何冊、という配本部数を決めていく。
 こういう流れだ。このパターンが正確であれば、あるいは精度が高いのであれば、返品は極力抑えられるはず。だがこれは建前であり、現実に返品率は書籍・雑誌共に近年増加傾向にあり、歯止めがかからない。現在では書籍が平均40%前後、雑誌は30%が返品されてくるという状況なのだ。
 このパターン配本の例で、何かが抜け落ちているのにお気づきだろうか? そう、「書店の意志」だ。書店は普通、新刊「@@@」が出るということは取次からの情報誌や版元からの新刊案内などで知る。そして自分のところに置きたい部数を事前に取次あるいは版元に直接注文を入れる。この前注文はもちろん新刊委託ではないから、扱いは「注文扱い」となり、返品は原則として不可能。売れ残れば自分の判断ミスとなり、版元にいちいち了解を取って返品の許可を得ねば返品できないこととなる。つまり自業自得であるが、問題は発売日に入ってくる本には、この書店が能動的に発注した「注文扱い」分と、取次がパターン配本で送ってくる「委託扱い」の2種類があるということだ。
 本は「委託用」「注文用」で色分けされていたり、帯が違ったりするわけではない。それに委託は取次がパターンで決めているもので、書店側はいったい「@@@」が何部入ってくるのかは解らない。発売日にフタを開けてみないと、現実には送本されてきた段ボール箱を開封して「@@@」の数を数えて初めて(伝票も見るけど)、自分の店に何部納品されてきたかが解るのだ。この委託と注文の配分というか兼ね合いを書店員は予想して、昔はよく思惑通りに部数を一致させるのが快感だったという話を、知り合いの書店経営者から聞いたことがある。「やった、ウチの店では45部は売り切る自信があった、事前注文30、委託で15、バッチリだぜ!」とか。
 長々と説明をしたけど、「特殊な委託」はこのことだけではない。通常他の業種で委託販売といえば、製造者が小売店なりに交渉して商品をいくつか置いてもらい、〆日を決めて、売れた分の代金を受け取り、委託を継続する場合には商品を補充したり…という形態だろう。だが出版の場合は、委託で本を搬入した段階で、売上が帳簿上は計上されてしまう。まだ売れていないのに、だ。もちろん、そのために委託(返品可能)期間があり、それらが相殺されていくわけだけど。
 この「売上」という数字が欲しいので、版元はとにかく新刊を作って委託で搬入し続ける必要がある。これがよく言われる版元の自転車操業だ。自転車は漕ぐのをやめると倒れる。つまり新刊を搬入しないでいると、返品として返ってくる分を売上から引かれていく一方だ。というか支払いの義務が生じてしまう。だから新刊を作らねばならない。少々乱暴な本でもとにかく作って委託でブチ込む。そうすりゃとりあえず相殺するための売上という数字が立つ。
 こうした姿勢が、先に述べた「粗製濫造」の一因になっているという指摘は昔からよくある通り。
(この項続く)
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大学の講義

実は今は亡きジャナ専=日本ジャーナリスト専門学校の「流通現場論」での講義内容含めて、という書き進めでした。
もう7年も経つので色々状況も変わっていますが、まあ一つそういうことで。

なんなんだこのわかりやすさ!

大学の講義みたいだ、いや、それ以上?
再販、取次、委託販売・・・いままでよくわからなかった単語が単語の説明にとどまらず、現場のプロのお話を生で聞いているかのような臨場感をもって伝わってきます。無料で読めるなんてなんともったいない!

論点?

>エッグマン&龍騎さん
版元を安定させてくれるような、一瞬の儲けは少なくても長く、細くともずっと支持されるような本を持つことは、周辺の業者にとってもいいことだと思ってました。取引先の印刷屋さんや製本屋さんも、確かにたいした直しもないし奥付やちょっとした修正ぐらいで大きなお金は取れない仕事だったかも知れないですが、「計算できるお仕事だからありがたい」と言ってくれてましたよ。本音かどうかわからんが(笑)。

>タミオさん
取次さんの仕入れ担当の窓口はちょっと確かに怖い雰囲気ありましたよね(笑)。俺ら弱小・零細にとっては特に。
出来上がったばかりの自分が担当した新刊を抱えて書籍仕入れの窓口で順番待ちの列に座っていた頃、某大手版元のスチャラカ社員風のヤツが紙袋を下げて「どもー!」なんて横からズンズン奥へ入ってって、偉い人に紙袋渡して、ついでに「これ搬入お願いしますよ、あとで電話入れるんで」なんて世間話しながら帰って行った、なんて光景を何度も目にしたものです(笑)。

論点

>長く売れる本というのは印刷屋にとってはありがたい存在ですが現場の人間にとってはそれはそれで厄介な代物

今回の論点から言って、ここで書くコメントとしてはどうなんでしょうか。と思います。すいません。

取次

取次がなかったら、こんな商売めちゃくちゃ面倒だと、いつも思ってます。だから大手との比較では「不利」になってるとわかってても、あんまり不満はありません。不満が出るところまで行ってないのか・・・。「書店さんの意思」だけじゃ、うちの本なんて存在も知ってもらえないし。

ただ、部決(というのだと今日知った)のところの取次社員は怖い。あまり会いたくないです。

元印刷屋の職工

実は昔印刷屋の職工だったんです、首になりましたが。
その時は徳間書店の「銀河英雄伝」とか「世界はこう変わる」とか刷ってました。(会社ばれるかな?)
自分は印刷屋でも刷判を焼く仕事をしてたんですが何度も同じフィルムを使っているとどんどん悪くなって凄く困ったのを思い出します。
印刷屋としては新刊が出るたびに校正したり写植したりと仕事が増えて儲かったんですがそれを保存するのは凄い面倒でした。(徳間書店は月二回くらい新刊を出していた)
長く売れる本というのは印刷屋にとってはありがたい存在ですが現場の人間にとってはそれはそれで厄介な代物でした。
なんか論点がずれてるコメントでスイマセン・・・。
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シラトリチカオ

Author:シラトリチカオ
白取千夏雄/編集者。1965年函館市宝来町生まれ。元青林堂「ガロ」副編集長、97年よりフリー編集者・ライター・Web構築・管理他なんでも屋と、専門学校・大学講師など。
2005年夏、白血病告知・余命宣告を受けるが「慢性リンパ性白血病」に近いタイプと判明、無治療・対処療法、2014年より抗癌剤治療、巨脾へ放射線など治療開始。2015年夏左上眼瞼にメルケル細胞癌発症、眼瞼切除、再建手術、16年にかけて放射線も耳下腺に転移、郭清術、放射線治療中に再発、左眼球ごと摘出・皮膚移植。転移再発治療中ながらまだ生涯一編集者として生息中。
二十余年の東京在住ののち、07年から京都在住。09年5月、愛妻=漫画家・やまだ紫を脳出血で失った。
やまだ紫クロニクル

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