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2010-02-05(Fri)

また、月命日

2月5日(金)

夕べは12時ころ就寝。朝は6時ころまで比較的良く寝られた。導眠剤を飲むタイミングはやはり、布団に入る1時間半ほど前がベストのよう。

朝方うつらうつらしていて、夢か半覚醒状態かというあたりでなぜか「あ、隣に三津子がいる」と何の疑問もなく思っている瞬間があった。その時右手を伸ばすと、まぎれもなく暖かい彼女の手で上下からふわっと包まれた。目を開けたがもちろん隣には誰もいない。
ただ手の感触は確かに暖かい、人のそれだった。
先日井坂洋子さんと対談したとき、しきりに「何か解るかたちで出てくれれば」と言ったからだろうか。…まあ、世間の人は「気のせい」「夢」と言うのだろうし、別にそれでもいい。

ここ数日ちょっと体調が悪い。どう悪いかというと朝の吐き気がひどくなったわけでも、食欲が落ちたわけでも、どこかが痛むというわけでもない。
もやもやと目がかすむような感覚があったり、めまいほどひどくはないが体にビシッとした安定感がなかったり、仕事をずっとしているのだが「やる気」がまったく出なかったり。
慢性の白血病の進行ステージと治療目安基準はいくつかあるが、俺の場合は横隔膜を挟んで上下のリンパ節に腫脹が見られ、脾臓は左腹部を被うように腫れ、白血球こそ増加ではなく減少気味ながら血小板数も減少。さらに意味のない発汗、そして気力の減衰。
まあだいたいもう末期的ではある。特に帯状疱疹で入院した後、退院してからしばらく経ってからの「気力の減衰」が自分にとってはしんどい。
やる気が出ないのだ。
仕事はありがたいことにちゃんと継続していただいており、その納期も決められている。だけど前のように一日の作業時間を決め、時間配分と休憩を考えつつ…となかなかいかない。毎朝起きて朝のルーティンをこなす。猫のご飯と水、洗顔やトイレ、シャワーをしたり時には洗濯機を廻したり、彼女やご先祖様にお茶を淹れ花の水を換え、線香を立てて手を合わせる。
普通はここから自分のメシだ、仕事だ、部屋の掃除も…となるのだけど、最近はもうそこまででぐったりしてしまう。
ここ数日、朝はセブンイレブンで買ってあったレンジでチンするだけのホットドッグとカフェオレだけ。毎日、毎日それだけ。つまり朝食も面倒なので朝の「一連のルーティン」に組み込んでしまったわけだ。お腹が空いたな、何を食べようかという気持ちはあるのに、「何か」を食べに行こうという気持ちにはまずならない。作ろうかという気持ちになることはたまにあるが、一番多いのは「あるものでさっさと済まそう」という消極的な空腹感の解決法だ。

ううむ、俺は連れ合いを亡くしてから明らかに鬱傾向に傾いている自覚はあるが、どうもこの気力のなさは病気の進行というより、抑鬱状態である。
連れを失ったこととガンという病気を抱えていること、孤独であること、全て普通の人にとっては耐え難いストレスであろうことが二重苦三重苦で自分に降りかかっている。変な言い方だけど、弱い人間なら死んでるだろうな、と思う。俺は強い人間ではないが、自分で自分を「殺す」ようなことはとても出来ない。(今のところは)
よって今朝は何も食べず。
出来れば買い物にも出かけたくないのだが、花や生鮮品は配達してはくれないので、最近は仕方なく数日に一度スーパーやコンビニへ出かける程度。インフルエンザや風邪の感染も怖いというのもある、けど要するに気持ちの問題だ。

今日は入院時の高額医療費負担分を返してやるという書類が来たので、区役所へ行かねばならない。
用紙があって、「十日以内に手続きに来い」という。それを過ぎたら権利は消滅するのだろうか。その期日の間には土、日といった手続きの取れない日も入っているから実質一週間程度。
役所のやることによく「血が通ってない」「冷たい」と言う人がいるが、「想像力が足りない」というのが本当だろう。高額な医療費を支出した人の中には、健常者同様ピンピンして出てった人もあろうが、普通は退院直後は当然病み上がり。あるいは慢性的な基礎疾患を抱えた人もいるだろう、その人間に「領収証や保険証印鑑を持って手続きに来い、こっちが指定した期間を過ぎたら終了だから」というより、何か一度聞き取りの電話を入れるとか、用紙に記入し必要書類と返送させるとか、ないものか。
お金は大切なので、返して貰えるなら返して貰った方がありがたいに決まっている。書類が来たのは3日。仕事が忙しかった。そして今も忙しいし来週もまた忙しい。週末は役所が休みなので、調子が悪いが今日くらいしか行ける日はない。
どんよりと曇って寒そうな外を見やり憂鬱になるが、昼あたりに少し日が射してちょっとでも気温が上がったら出かけることにしようかと思案。

その後陽射しも出そうにないので、11時過ぎに着替えて出る。やはり寒い。すぐタクシーが来たので、東一条の左京区役所へ。5分ほど前の人を待って、高額医療費還付の申込書類と領収書の束を渡す。
係の男性は丁寧な応対で、向こう側の書類つまり俺が被保険者証でいつどこの医療機関でいくら払ったか、というのを打ち出したものと、持って来た領収書の要所要所を照らし合わせている。今回は去年の帯状疱疹の加療、入院が10月と11月にまたがっていたので、書名する書類も2種類2枚ずつ。片方には捺印も。
最後に保険証を簡単に確認し、向こうから「確かに受付ました」という確認の用紙を2枚貰って終了。

それから東大路へ出て、しばらく近くへの買い物くらいしか歩いてなかったので、足が萎えないように百万遍方面へてくてく、ゆっくりと歩く。しかし目的もなく歩いているとはいえ、一人で会話もなく「散歩」という気分ではない。
連れ合いと二人で京都へ来て、一緒にあちこち歩いたなあ、というより、いつもいつも二人一緒だったなあ…。
でも今はもう一人だから、四季の移ろいや古都の風情を愉しむ相手もないわけで、思えば遠くへ来たもんだ。
そのうち元田中へ出たのでスーパーで、今日は月命日、彼女が好きだったあっさりした酢の物、水菜の漬け物のほか、白身の刺身も買った。それら少しだけを買って、そのまま歩いてマンション前のコンビニで週刊誌と明日からのホットドッグ、ヨーグルトなどを買って帰宅。

最愛の人を失った5月5日から、数えて9回目の月命日だ。もうずいぶん、彼女の声を聞いていない、会話をしていないと思う。たった9ヶ月なのか、という気持ち。でも去年の節分に二人で下鴨神社へ出かけたのはついこないだのようだ。あれから一年。短いというのと、長いという気持ちが半々。

そうか、朝俺の手を握ってくれたのはやっぱり君だったか。
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コメント

亀田夕佳

コメントありがとうございます。
やまだの作品をご紹介いただき、ありがとうございました。
色んな人から「ちゃんと食べてるか」心配されていますが、食欲はないものの空腹感はあり、一応バランスも考えております・・・(笑)。

韓国の友人に送りました。

『性悪猫』と『しんきらり』を韓国の友人に送りました。『現代詩手帖』が刊行されましたら、『ゆらりうす色』、『樹の上で猫が見ている』と一緒に贈る約束をしています。
また友人からのコメントが届きましたらご報告しますので、楽しみにしていてください。
…なので、お野菜も食べてくださいね。
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シラトリチカオ

Author:シラトリチカオ
白取千夏雄/編集者。1965年函館市宝来町生まれ。元青林堂「ガロ」副編集長、97年よりフリー編集者・ライター・Web構築・管理他なんでも屋と、専門学校・大学講師など。
2005年夏、白血病告知・余命宣告を受けるが「慢性リンパ性白血病」に近いタイプと判明、無治療・対処療法、2014年より抗癌剤治療、巨脾へ放射線など治療開始。2015年夏左上眼瞼にメルケル細胞癌発症、眼瞼切除、再建手術、16年にかけて放射線も耳下腺に転移、郭清術、放射線治療中に再発、左眼球ごと摘出・皮膚移植。転移再発治療中ながらまだ生涯一編集者として生息中。
二十余年の東京在住ののち、07年から京都在住。09年5月、愛妻=漫画家・やまだ紫を脳出血で失った。
やまだ紫クロニクル

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