2011-05-07(Sat)

死の淵

5月7日(土)

6日夜11時過ぎ。シマが突然つづらの上で前足だけで立ち上がり、激しく吐く動作をしながら、つづらからヨロリと出た。そのまま倒れると、口から赤茶色の液を吐いて首を上下に動かし、下半身からは黄色い尿がじわりと漏れだしてきた。
ああ、これで最後だ…と思った。これまで見送ってきた猫たちの最後と同じだ。
シマが何度か苦しそうに口から血交じりの液を吐くたびに濡れタオルで拭いてやり、下半身はバスタオルでオムツのようにくるむ。落ち着いたところでそのままつづらに横に入れてやり、撫でながら「もういいから、ありがとうな、今まで本当におまえのおかげで楽しかった。もう楽になっていいから、頑張るな」と声をかける。
シマはつづらの縁に頭を乗せたまま、じっとこちらの目を見ている。時おり小さく「ぅぅ〜〜っ…」と苦しそうな声を出すが、先ほどまでののたうち廻るような様子ではなく、弱い呼吸をしつつ、ただじっとこちらの目だけを見据えている。
怖いだろう、不安だろう。でももうすぐ楽になるぞ。よく頑張った。目は落ちくぼんでいるので、閉じてやろうにも塞がらない。撫でて閉じさせようとすると、指にシマの涙がさわった。
本当に、あとは出来るだけ「その瞬間」苦しまぬように。祈る相手が誰なのかよく判らないが、祈るしかない。
その後落ち着いたように弱い呼吸をゆっくり繰り返すシマを気にしつつ、ソファで休む。今晩か、明日か…。

夜中何度か確認したが、そのうちこちらも寝てしまった。
朝方ゴトリと音がしたので飛び起きて脇を見ると、シマがつづらから出て床に敷いたタオルの上でもがいていた。苦しそうに首を上下に動かしつつ、「けええ…」と赤茶色い液体を吐く。口のまわりを拭いてやるが、「んんぅ〜…」とかすかに弱く唸るような声を出している。
つづらに戻して撫でてやっているうち、縁に顔を預けてじっと弱い呼吸を繰り返すようになった。まだ朝6時前。
朦朧としつつこっちもフラフラとトイレへ行き洗顔その他を済ませる。

先日の連れ合いの命日、色々な方からお酒やお花をいただき、その御礼を書いたりせねばならないのだが、ちょっと今の状況では無理。メール、ブログのコメント、ツイッターなどでも逐一返信をしたいが、申し訳ない限り。
ただ、激減したとはいえ仕事だけはしないと生活できない。病気で死ぬ前に生活苦で路頭に迷う。傍らにつづらを置き、時々もがくように動くシマをなだめるように撫でてやりつつ、仕事の連絡と作業。

10時半ころ、またもがくように体を蠕動させてつづらから出ようとするので、慌ててバスタオルを持って来て床に敷き、そこへそっと寝かせてやった。
シマはそこに置かれた格好そのままで、目を開けたまますうすうと穏やかな息で横になった。30分ほど経つとこちらの音や動きへの反応が無くなり、本当に寝ているようにしか見えない。

11時すぎ、突然前足だけで一瞬立ち上がるがすぐに崩れ落ち、もがく。「くけえ」と少し多めにごぼりと液を吐いたので、またタオルを濡らして顔を拭いてやった。この時はかなり苦しそうで、尿も少し漏らした。吐き終わるとぐったりし、弱い呼吸を続けている。
以前、マルが死んだ時はこういう感じだった…。そう思って時計を見る。11時11分。お別れだな…、と覚悟した。

ところがその後もシマはバスタオルの上で目を開けたまま、おだやかに眠るようにじっとしていた。
12時過ぎ、突然顔を上げ、あたりを見回したあと、また横になる。そうしてこちらをじっと見たので、いつものアイコンタクトでこちらも目を何度か瞑ってやると、答えるようにシマも目を瞑ろうとする。もう完全に目が閉じないので半開きながら、また安心したように横になったままゆっくり呼吸をしている。その後タオルの上でもがくので、つづらに戻してやった。

4時すぎ、またつづらから出ようともがいた。出してやるといざるようにトイレへ行こうとする。トイレの前に敷いたシートまで連れて行くと、小便をするでもなく、その場にへたりこんだ。
今日は部屋の中がやけに暑いと思ったら、外も25℃くらいまで上がったらしい。シマもタオルを敷いてある冬用のつづらが暑いのだろうか。床の上に敷いたシーツから動かない。
そのままずっと、弱々しい呼吸のままじっとしている。こちらが時おり見るたび、呼吸が止まったかとギョッとしてしばらく凝視してしまうほどにゆっくり、そして弱い。
ずっとただ眠るように、じっとしている。
昼ころに吐いたあと、苦しい様子を見せないでいるのが唯一の救いだ。

夜7時半過ぎ、もがいているのでまたつづらに戻してやる。しばらく穏やかに落ち着いていたが、8時前になってもがくようにつづらから下半身だけを落とすようにして這いずり出て、首を気怠そうに乗せて横になっている。
時おりこちらをクルリと振り返って切なそうな顔をする。

9時過ぎ、少しもがいたので近くに寄ってさすってやると、苦しそうに嘔吐症状。これまでにない大量の血膿のようなものを吐いた。
その後呼吸がほぼ停止、口から舌が出たまま数秒…4〜5秒おきに「ハアッ」と呼吸をする。その間隔が少しずつ開いていく。心臓が止まっている。
口元を何度も拭いてやり、体を撫でて「よしよし、もういいぞ、もう頑張らなくていい。ありがとう」と声をかけていると、何と呼吸が蘇った。
撫でていたのが心臓マッサージになったのか、だらりと出ていた舌が戻り、力の抜けていた頭をふらふらと上げて、はっきりと視線をこちらに向けた。思わずタオルにくるんだまま抱きかかえて手を握ってやると、もう肉球が冷たい。そしてすさまじい悪臭。
正直、なぜこの状態でまだ生きているのか全く理解出来ない。
シマはまっすぐ、しっかりとした視線でこちらを見続けている。「シマ」と言うたびにかすかに尻尾を振る。
あり得ない、さっき心停止した、呼吸も停止しかかったはずだ。
かすかに口を動かして何か言っている…というより鳴こうとしている。目はじっとこちらを見たままだ。こちらの膝の上で手を突っ張り、体を動かそうともがいた。
「もう下ろして」と言うような感じだったので、つづらに新しいタオルを重ねて下ろしてやる。
さきほどまでの壮絶な死相が浮かんだ顔と呼吸が嘘のように、おだやかになった。猫特有の、正面から見たらまるで微笑んでいるかのような表情。

その後はずっとつづらの中でじっとしていた。こちらが目をやるとちゃんと目を合わせる。
何だか無理やり死の淵から引き戻したような気がしてしまうが、あのまま血反吐にまみれて呼吸困難で苦しみながら死ぬよりも、今のように穏やかに、静かに眠るように逝ってくれたらどんなにいいだろうか。俺が寝てる間でも何でもいい。シマが楽に、出来るだけ苦しまずに逝けるならそれでいい。
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コメント

Unknown

シマちゃん。
今、どうしていますか。
苦しくないですか。
祈るしかできないけど。
シマちゃんのことをずっと思っています。

Unknown

しまちゃん、頑張っていますね…。
もし、寝たまま粗相をしてしまうようでしたら、タオルの上にペットシーツを敷いてあげると良いかもしれません。
吸収が早いので体が汚れずに済んで少しは猫も不快感が減るようです。
ウチの先代猫が末期に寝たきりになったときにしていた方法です。
釈迦に説法のようで気が引けますが、よければ試してみてください。
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シラトリチカオ

Author:シラトリチカオ
白取千夏雄/編集者。1965年函館市宝来町生まれ。元青林堂「ガロ」副編集長、97年よりフリー編集者・ライター・Web構築・管理他なんでも屋と、専門学校・大学講師など。
2005年夏、白血病告知・余命宣告を受けるが「慢性リンパ性白血病」に近いタイプと判明、無治療・対処療法、2014年より抗癌剤治療、巨脾へ放射線など治療開始。2015年夏左上眼瞼にメルケル細胞癌発症、眼瞼切除、再建手術、16年にかけて放射線も耳下腺に転移、郭清術、放射線治療中に再発、左眼球ごと摘出・皮膚移植。転移再発治療中ながらまだ生涯一編集者として生息中。
二十余年の東京在住ののち、07年から京都在住。09年5月、愛妻=漫画家・やまだ紫を脳出血で失った。
やまだ紫クロニクル

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